ホタルに魅せられて

府川 きよし

Yさんは 仕事でマレーシアに数年滞在
輸出用の海産物加工を教えていた
ある日の夕暮れどき 
現地の人に誘われ 初めて見た光景が
眼に焼き付き 忘れられない
川岸の木に ホタルが鈴なりに輝いている
定年で ふるさとに帰っても
その感動が 忘れられない








黒いホタルの幼虫を 繁殖しそうな所
丘陵の下から 泉が湧き出している小川
水がきれいで カワニナがいる候補地を
数か所見つけ 六年前に放流した
本人も忘れかけていたころ 友人が
ホタルがいっぱい 輝いているのを見つけ
「見事に繁殖しているよ」 と連絡してきた







密かに友人の車で 花水川の上流まで行き
Yさんの案内で 歩いて現地に近付く
百b先の丘の裾に ホタルが輝いている
近付くと 手にもシャツにもホタルが
人を恐れず 輝いたままとまってくる
ホタルは川沿いの草木に群がり デートしている
オスが強く輝き メスはその半分の輝き
数秒間輝き消えるが また輝き出す
集まっている所は ホタルが安心できる場所
夕方八時ころをピークに
輝きは だんだん弱くなり
深い森の木を 寝場所にしている






 








ふるさと土屋にも むかしは
あっちにもこっちにも ホタルがいっぱいいた
今は 人里離れた一部の所にいるだけだ
復活させることは 出来ないものか
そう考えているうちに
ホタルの復活をめざす仲間と知り合い
飼い方を伝授してもらい 水槽を用意
自宅で ホタルの養殖を始める
近所のゲンジホタルを捕まえてきて
交尾させ 卵を産ませ 孵化した幼虫を
採ってきたカワニナを餌に 水槽で増やした
その苦労は 飼っている人にしか判らない










Yさんが夕暮れ時 確かめに行くと
ホタルがいっぱい 輝いているではないか
飛んでいたり 川岸の草木に止まっている
数えたら 百匹から二百匹くらいいる
いまは周りの畑で 野菜つくる人たちに
農薬を極力使わないよう 協力して頂き
ホタルも安心 毎年この時期に輝いている














「孫のように 可愛いホタルでしょう」
と Yさんに言ったら
「私には 孫よりも可愛いよ」
と笑みを浮かべ 生態を話してくれた
うちのカミさんも幼いころ 熊本のふる里で
ホタルが鈴なりに輝いている木を見たと言う
いまは昔 だがそれも
「夢ではない」 と思う 夕暮れ時であった